2021.5.30

 とはいえもちろん、ベランダなりLDKなりにつながるドアを開ければさすがに聞こえるのだから、部屋の中にいるのはたしかだけれど、もくもくキーボードを叩いていても、ベラさんとかとZOOMで話していても、ミーティングをすっぽかして寝ていても、私にはわからない。彼女はちゃんと働いているだろうか、と思ったりもするが、それは私も同じことで、ときどきU-NEXTで映画とか観て午後の時間をつぶしたりする。

 私は誰かと同じ空間にいると落ち着いて仕事ができない。恋人と部屋を分けたのもそのためだった。同棲をすることを決めた──私のプロポーズが断られた日、私は凡庸にも、というのか、世間の慣例に忠実に、というべきか、考えなしだったとはあまり思いたくないのだが、自分ではそれがいちばん良いような、彼女が喜んでくれるような気がして、普段は行かないちょっと高いホテルのレストランを予約して、デザートの皿が運ばれてくるとそこに指環の小箱が乗っている、というサプライズをやったのだった。