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2021.6.10

  • 執筆者の写真: 涼 水原
    涼 水原
  • 2021年12月8日
  • 読了時間: 1分

更新日:2022年3月13日

私の実家への旅行に煙草を持っていかなかったのは、私たちの親世代だとまだ女性の喫煙を好ましく思わない人もいるかもしれない、という配慮もあったようだ。実際に、彼女の実家を訪ねたときも、彼女は出かける前にすこし匂いのつよい香水を自分に振りかけていたし、日帰りできる距離でせいぜい数時間のことだったにせよ、滞在中は一本も吸っていなかった。とはいえ、その配慮以上に、一週間ほど煙草に手も触れない、という、彼女にとって困難なミッションにあえて挑んでみたかったらしい。どこかスポーツめいた試みだ。

 サッカーは、人体のなかでいちばん器用に動かせる手指の使用を禁じられたスポーツだ。〈技〉という字は手偏だが、サッカーの技はもっぱら足で行われる。足でボールを扱う、という制約にこそ独特のクリエイティヴィティが宿る、というのは、文字以外のツールをつかわずに制作をする自分の仕事に影響されすぎたサッカー観だろうか。

 煙草という、隣室にいる私なんかよりよっぽど彼女の生活に密着しているはずのものを、あえて切り離すことで、彼女は何かを生み出そうとしていたのだろうか。最後の帰省もパンデミックの前のことだった。



明日のこと

高台にキャンパスがあり、坂を下ったところに附属の小中学校があった。私はそこで九年間を過ごした。私が小学校に入学したときは教育学部附属だったが、通ううちに教育地域科学部になり、卒業するときは地域学部になっていた。とはいえ、入学式を終えたばかりの児童にその違いはよくわからない。...

 
 
 
2021.12.31

行ったねえ。恋人が、みんなといるときよりゆったりした口調で言った。 行ったねえ。私も同じように返す。どちらからともなく手をつなぎ、北口から駅を出た。南口側ほど栄えてはいないが、こちらも駅を出てすぐは飲食店街だ。といっても、大晦日にもなるとチェーン店の多い南側と違い、北側はも...

 
 
 
2021.12.30

今年ぃ?とミツカくんが怪しむ。そうだったの?と今年ずっといっしょにいた恋人が目を見開く。あ、いや今日、今日考えてた、と慌てて訂正した。 今日ずっとでもたいがいやわ、とミツカくんが笑う。 まあでも今年ずっとよりはマシやろ。...

 
 
 

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