感染の拡大がひどくなってもかたくなに開催をめざし、そのくせ直前になってようやく息切れしたように中止になったオリンピックで、私の郷里の街は、カリブの島国の代表団のキャンプ地になった。小学生のころに私たちの国で行われたワールドカップでは南米の国の代表が私たちの街を拠点に戦っていた。私は当時サッカー部の六年生で、市民や現地のサッカー少年団との交流事業には欠かさず駆り出され、ユニフォーム姿で選手とパス交換をしたりスペイン語で──カンペのカタカナを読み上げて──質問したりした。今大会の目標は何ですか? ぼくたちの街をどう思いますか? どうすればプロになれますか? 選手たちは彼らなりに真摯に答えてくれたのだが、真剣にサッカーを楽しむことだよ、と言われても、ぴんとくるはずもない。私たちはなにか私たちが抜ける勇者の剣みたいな、ちょっとの労力でいきなり世界のトップに立てるような秘密をほしがっていて、しかし当然そんな剣などどこにもなく、私たちのうち誰ひとりとしてプロにはなっていない。
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