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2021.6.29

 翌日は梅雨のただなかなのによく晴れて、でも空気はじめじめした朝だった。明日には東京に戻るから、一日を自由につかえるのは今日だけで、でも平日だから、定年でいったん辞めて再雇用されている父と、その年度の終わりにバス会社を退職する母は仕事に行っていた。私は車の免許を持っておらず、バスは一時間に一本とかだし駅は遠いしで、私たちは自転車──私は高校まで乗っていた愛車ぬらりひょん号、恋人は、父が通勤につかうつもりで買ってたいして乗らなかったたぶん高いスポーツタイプ──に乗って出かけた。

 カオルくん、どこ行くの?

 どこ行こうね。街に出る? 美味いカレー屋も観光名所のでかい砂丘も県立図書館も、前回来たときすでに案内していて、もう行くところとしては、私がよく肉まんを買ったファミマとか、放課後に立ち読みしに行っていたブックオフとかしかない。

 それはあんまり興味ないかな。

 ぼくもべつに今さら行きたくはない。

 じゃあ言うなよ。

 そうだよねえ。街じゃないなら海か山かな、ということで、私たちは山を目指した。


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