ここを過ぎたらすぐのはず。
濃い豆腐の匂いは、私たちがそこを離れてもしばらくついてきた。建物が見えなくなったあたりで道は下りに転じ、しばらく進むと、地面の底のほうから水音が上がってくる。
滝の音? 恋人が自転車を漕ぐのをやめてこちらを見る。車輪がカラカラいいはじめた。再び、スピードが上がりすぎないくらいに弱く漕ぎはじめる。わたし、滝の音、聞いたことない。
ぼくもだ。
七月の緑はみずみずしく繁茂して、木々のむこうにあるらしい滝は見通せない。かすかに震えつづける湿った空気をかきわけるように、私たちは道を下る。
駐車場、というほどのこともない、路肩がちょっとふくらんだ、車を停めて滝を見るためなのだろうスペースで、私たちは自転車を降りた。走行音がおさまると、私たちの息の音だけがうるさく、それが落ちついてくるにしたがって、滝の轟音と鳥かなにかの生きものの気配が聞こえてくる。
ここはね。私はふと思い出して言う。冬になると峠が通行止めになるんだ。たしかこの滝よりすこし車道を上ったところ。
夏のいま言われましても。
いや……、すみません。
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