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2021.8.11

  • 執筆者の写真: 涼 水原
    涼 水原
  • 2022年2月13日
  • 読了時間: 1分

更新日:2022年3月14日

 ワイルドはある日、昼食をともにした友人に、午前中の執筆はどうだったか訊かれて、とても捗った、ここ最近ずっと取っ組んでる作品から、カンマをひとつ取ったんだ、と答えた。そして夜、同じ友人と食事をとりながら、午後はどうだったか訊かれて、充実した表情で頷き、午前中取ったカンマを戻したんだ、と笑った。けっきょく昨日から原稿は、一文字たりとも変わっていない、カンマをひとつ出し入れしただけ、なのだが、ワイルドは、とても捗った!と答えたのだという。

 私にはワイルドの気持ちがよくわかる。出力されたものがたとえ昨日から何も変わっていなくとも、そこには豊かな思索があって、次に書く一文は、ひとつのカンマをめぐって考えつづけた時間のぶんだけ深みをもっているはずだ。

 句読点や漢字の閉じ開き、言葉のリズム、調べ、そういうきっと些細にすぎる、でもゆるがせにはできないことを考えるとき、私はいつもオスカー・ワイルドならどうするか考える。


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