2021.8.15

この棚にあるのはほとんどが既読のもので、見ていると、ストーリーや文中の一節が思い出されてくる。そうやって私はここにある本を何度も、開くことなく再読している。紅茶がほどよい温度になって、二、三口啜った。隣室のドアが開いて、恋人がLDKに出た気配がした。私もカップを持ってドアを開ける。

 おつかれ。

 ん、おつかれ。カオルくんも休憩?

 ゲラ戻した。みやびさんはどう?

 うん、仕事は、まあ……。恋人は歯切れ悪く俯いて、空のマグをシンクに置いた。ごとん、と大きく響く。ヤスミン寝ちゃった。

 向こうは深夜か。

 そう。だからこっちだけでも、三日後以降にリスケできないか調整しようとしたんだけど、もともと進行があぶないやつだったから無理っぽい。

 そっか。とりあえずコーヒー飲む?

 飲む。彼女は頷き、バルミューダを手に取った。私も冷蔵庫から昼食のときに挽いた粉の缶を出し、濾紙を折る。私たちは口をつぐんで、湯が沸く音が聞こえるまでの長い沈黙を持て余していた。すると不意に、キッチンに寄りかかった彼女の尻のあたりから、スマホが震える大きい音がした。びっくりした、と身体を起こしたところで、ドアを開けっぱなしにしていた私の部屋から、机に置いたスマホが震える音が聞こえた。恋人はそっちを見やり、また私に視線を戻す。わたしにもきた、二連続。彼女は、私たちの、彼女と私以外の七人の顔を思い浮かべながら、誰かな、と言った。