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2021.8.28

  • 執筆者の写真: 涼 水原
    涼 水原
  • 2022年2月25日
  • 読了時間: 1分

更新日:2022年3月28日

 開けっぱなした向こうから、隣室のドアを閉める音の余韻が消えるまで、私は何をするでもなく、新しいサルやメッセージが現れつづけるスマホの画面を見下ろしている。粟立った感情が落ち着くころには、恋人はたぶんもう仕事を再開していたし、彼女と私の会話を知るはずもないみんなは、ミツカくんが口移しでサルに餌をやろうとして鼻面をひっかかれた話をしている。その様子を見ていたのは宇野原さんとベラさんと私と、ベラさんの友人の何とかという人で、その何とかという人は、たしかベラさんの父親の郷里から旅行で来たはずだ。彼女が話す言葉をわかるのはベラさんだけだった。ミツカくんの鼻は、血こそ出なかったが、しばらくすると赤く膨れ、それを見ながらベラさんの友人がスペイン語で何か言って、ベラさんはそれを、赤ちゃんみたいでかわいい、と訳してくれたのだが、三十近い酔っぱらいが鼻にみみず腫れをつくって赤らんだ顔でヘラヘラしてるのを、私たちはぜんぜんかわいいとは思えず、たぶん彼女と打ちとけたくて身体を張ったのだろうミツカくんも、なんか恥ずかしそうにはにかんでいた。



明日のこと

高台にキャンパスがあり、坂を下ったところに附属の小中学校があった。私はそこで九年間を過ごした。私が小学校に入学したときは教育学部附属だったが、通ううちに教育地域科学部になり、卒業するときは地域学部になっていた。とはいえ、入学式を終えたばかりの児童にその違いはよくわからない。...

 
 
 
2021.12.31

行ったねえ。恋人が、みんなといるときよりゆったりした口調で言った。 行ったねえ。私も同じように返す。どちらからともなく手をつなぎ、北口から駅を出た。南口側ほど栄えてはいないが、こちらも駅を出てすぐは飲食店街だ。といっても、大晦日にもなるとチェーン店の多い南側と違い、北側はも...

 
 
 
2021.12.30

今年ぃ?とミツカくんが怪しむ。そうだったの?と今年ずっといっしょにいた恋人が目を見開く。あ、いや今日、今日考えてた、と慌てて訂正した。 今日ずっとでもたいがいやわ、とミツカくんが笑う。 まあでも今年ずっとよりはマシやろ。...

 
 
 

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