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2021.8.29

  • 執筆者の写真: 涼 水原
    涼 水原
  • 2022年2月26日
  • 読了時間: 1分

更新日:2022年2月27日

 その日の記憶のなかのミツカくんはだいたい彼女のほうを向いていて、その日のことを思い出すときに私が思い出すのは彼の毛量の多い後頭部や赤らんだ耳とかだ。私たちはfacebookで友達登録をしたが、彼女はぜんぜん近況を投稿しないし、意思の疎通が取れるのはベラさんだけだったから、その後私たちが彼女と連絡を取ることはない。

 マリアはね、いまサンディエゴで働いてるよ。また日本行きたいって、話すたびに言ってる。

 ベラさんはそのメッセージのあとに画像を送ってきた。カメラアプリのフィルター機能なのだろう、フィルムで撮ったようなざらざらした質感で、彼女──マリアが、いまよりすこし若い、神楽坂で独り立ちする前の、茶色い髪のミツカくんの、酔ってたにしても赤い鼻を指さしていて、その指の先には、粗い質感でもはっきりと、サルの爪の跡が見える。これもアプリの機能で、写真の右下にはオレンジ色で日付が入っていて、六年前の秋だ。背景の紅葉が鮮やかだった。


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