top of page

2021.8.7

  • 執筆者の写真: 涼 水原
    涼 水原
  • 2022年2月4日
  • 読了時間: 2分

更新日:2022年3月14日

 さっきから一行も進まないワードファイルを閉じる。私のマックのデスクトップには、現在作業中のワードとかゲラのPDFとかが画面中央に並んでいて、あとはぜんぶ〈仕事〉と〈その他〉の二つのフォルダに突っこんでいる。そのなかから、再来月の文芸誌に載る予定の中篇のゲラを開いた。パンデミック前はたしか、そういうゲラは、どこかの喫茶店とかで編集者と顔をつきあわせて、改稿の方向性や次作のことなんかを相談しながら受け取ったものだった。お互い忙しかったりで会う余裕がなくても、A4の束がでかい封筒で送られてきたはずだ。それがパンデミックで人と会うことも、他人が素手で触れた物すら忌避される数年間を経て、ぜんぶデータでやりとりするようになった。タブレットとタッチペンを使えば楽なのだろうが、私はどっちかというと紙で読むほうが好きで、いったんプリントアウトして赤ペンで書きこんでいる。自分でもぎりぎり読めるくらいの殴り書きを、PDFにひとつひとつ、テキストボックスを挿入して打ち込みはじめた。めちゃくちゃ非効率的なのはわかっているのだが、それがいちばん気持ち良く作業できるから、けっきょくはじめてのゲラから十年以上このやりかただ。私がいつまでこの仕事をしていられるのかはわからないが、きっとキャリアが終わるまで、ずっとこうやっていくのだろう。


明日のこと

高台にキャンパスがあり、坂を下ったところに附属の小中学校があった。私はそこで九年間を過ごした。私が小学校に入学したときは教育学部附属だったが、通ううちに教育地域科学部になり、卒業するときは地域学部になっていた。とはいえ、入学式を終えたばかりの児童にその違いはよくわからない。...

 
 
 
2021.12.31

行ったねえ。恋人が、みんなといるときよりゆったりした口調で言った。 行ったねえ。私も同じように返す。どちらからともなく手をつなぎ、北口から駅を出た。南口側ほど栄えてはいないが、こちらも駅を出てすぐは飲食店街だ。といっても、大晦日にもなるとチェーン店の多い南側と違い、北側はも...

 
 
 
2021.12.30

今年ぃ?とミツカくんが怪しむ。そうだったの?と今年ずっといっしょにいた恋人が目を見開く。あ、いや今日、今日考えてた、と慌てて訂正した。 今日ずっとでもたいがいやわ、とミツカくんが笑う。 まあでも今年ずっとよりはマシやろ。...

 
 
 

Comments


© 2020 by Ryo Mizuhara. Proudly created with WIX.COM
bottom of page