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2021.9.12

ほとんどの学生が一年であとにする教養棟に、二年も三年も四年も通いつづけた私たちには、そのすぐ近くにある学食にも、いつもの席、ができていて、彼の場合たしかそれは、メインストリートに面した窓辺だったはずだ。私が跳ね歩きをしてるのを見れば、彼はその窓から跳び出して出迎えてくれるかもしれない。私は跳ねはじめた。ふつうの歩きかたから一歩ずつ、足にかける力を強めていく。着地の反動に乗っかって、さっきの一歩より数センチだけ高く跳ぶ。それをくりかえす。最後に跳ね歩きをしたのはもう八年くらい前のことで、それでも自転車と同じで、私の身体はあの特異な歩法を憶えている。古くさいムーブをする私を、地上を歩く学生たちがあんぐりと口を開け、たぶんちょっと馬鹿にして見上げている。迷惑そうに道を空けてくれたり、スマホを見下ろしててぜんぜん私に気づかない人もいる。


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