2021.9.23

 そうやって無心に書きつづけて、突然ふと我に返る。私は右手をキーボードにおいたまま、左手でマグカップを持っている。口に当てたマグ越しに画面を睨んでいる。書いてる途中の文があり、横に変換候補が並んでいる。マグのなかは乾いたコーヒーのにおいが充満していて、唇の、先のほうで挟んだ陶器が冷えている。コーヒーがもうない、と、一拍遅れて気がついた。

 小説に集中できていると、ときどきこういう瞬間がやってくる。自分はいない。キーボードの打鍵音や、ペン先が紙をこする音だけが聞こえる。その音とともに目の前に文章が、一文字ずつ、一単語ずつ現れる。小説だ。そこに書きつけられるひとつひとつの言葉の意味するところを、私はあまりわからない。何か良いものがいまここでできあがっている、という確信だけがある。

 ライターズハイ、と、一言でいえばそういうことなのだろう。そんな日はよく眠れる。