top of page

2021.9.26

 ケトルが静かになったころには恋人の部屋は別の曲が流れはじめている。たぶんほんとうなら、私が主体的に動くべきなのだろう。この時間ならいちばん遠くに住んでる林原さんもまだ家を出ていないはずだ。時間をずらす、別日にリスケする、散歩じゃなく私たちの家に招く。下戸の私は一度もやったことがないが、ZOOMで集まって飲むのでもいい。ミーティングの間だけ恋人が離脱できる集まりかたは、たぶんいくらでもある。しかし、朝の、飲み会の高揚の名残と眠気でとろけたルールーの、散歩はわたしたちとしよう、という声や、そのあとに続いた酔っぱらいたちの声、そしてもしかしたら私が通知を切ったあとも賑わっているグループLINEのやりとりに水をさしたくはない。恋人も、なんとか参加しようとがんばってるはずだ。それに私たちは、みんなで集まることのうち、喋ったり飲み食いしたりすることよりも、無為にゾロゾロ散歩すること、を大事にしていて、今日は五年ぶりのチャンスなのだ。LINEのグループ名も〈散歩隊〉で、これはたしかミツカくんがつけたもので、アイコンも、長く日本代表のゴールキーパーだった川島永嗣の顔だ。


bottom of page