チームの主役は選手だから、とふだんは一歩退きつつ、歩きはじめるとつい先頭に立ってしまう川島に、ミツカくんは感銘かなんかを受けたらしく、それまでは鬼子母神前のコインパーキングに停まってた車の窓の〈愛猫家〉というステッカーの写真だったLINEグループのアイコンが、いつの間にか、スポーツニュースで拾ってきたらしい、散歩中の川島の顔に変えられていた。サッカーに関することなのだから犯人は私かミツカくんに決まっていて、私じゃないのだからミツカくんだ。
コーヒーを持って部屋に戻る。何年か前、モンゴルと日本は、ワールドカップの予選でホームアンドアウェイの二試合を戦った。一度目の会場は日本ホームの埼玉、二度目はパンデミックのせいで、モンゴルのホームゲームなのに千葉だった。川島は代表に選ばれていたが、選手はトレーニングと試合を除いて外出禁止だった。どちらも国内だったから、疫病のことがなくても散歩はしなかっただろう。川島は、すくなくとも試合のためにモンゴルに行ったことはたぶんないし、モンゴルで散歩隊として活動したこともない。
私はモンゴルに行ったことがないが、いまモンゴルを舞台に書いている。知らない土地で書くことは、知らない土地を散歩することと似ている。
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