2021.9.3

そこで筆を置いて読者を突き放すか、エピローグを書いて軟着陸させるかは作品と私のバランス感覚で決める。そのころにはだいたい百から二百枚ぶんの原稿ができている。編集者から求められた枚数に合わなければ削ったり加筆したりするのが良いのだろうが、だいたいは何食わぬ顔で送りつけ、何か言われれば対応する。

 編集者によっては、次なに書くか相談しましょう、と言う人もいる。そういうときには私もそれなりに頑張る。ネタ帳の内容をワードファイルにまとめたり、なんとか最初の一文をひねり出したりして、待ち合わせの喫茶店に行ったりZOOMにログインしたりする。編集者は私のこれまでの仕事を読んでいるので、ある程度はどんなものを書いてほしいか頭のなかにある。お互いが持ち寄ったものを見せ合って、じゃあこれでいきましょう、と合意する。

 しかし私は、一文一文考えながら書く書きかたしか知らず、気がつくとその合意から遠く離れた場所にいることも多いし、そういうときのほうが往々にして良いものが書けている。たぶんそうやって逸脱するのは私だけではなく、事前のやりとりと違うものを送りつけても、だいたいの編集者は、なるほどこうきましたか、とか、せいぜい、聞いてたのとぜんぜん違くてびっくりしましたよお、とイヤミを言うくらいで受け取ってくれる。