2022年3月23日2021.9.23そうやって無心に書きつづけて、突然ふと我に返る。私は右手をキーボードにおいたまま、左手でマグカップを持っている。口に当てたマグ越しに画面を睨んでいる。書いてる途中の文があり、横に変換候補が並んでいる。マグのなかは乾いたコーヒーのにおいが充満していて、唇の、先のほうで挟んだ陶...
2022年3月22日2021.9.22単価のことはさておいて、漱石はとにかく書いたのだ。十六行書きながら、その無為な会話のあとにくる場面を頭のなかで組み上げた。文章を書いているときは、目の前の作品に集中していて、ほかのことを考えている余裕はない。書くことは考えることだ。とにかく書いてれば、そのうち続きが見えてく...
2022年3月22日2021.9.21漱石の『虞美人草』のなかに好きな一節がある。好きというかときどき思い出す一節だ。小野さんのところに旧友の浅井君が訪ねてきたときの、下女と小野さんのやりとりだ。 「通してもいいんですか」 「うん、そうさね」 「御留守だって云いましょうか」 「誰だい」 「浅井さん」 「浅井か」...
2022年3月20日2021.9.20とはいえ、図書館を辞めてからもう五年あまりが過ぎた。三十代の五年間の職歴が空白では、どうにか働き口が見つかっても、今と同じくらいの収入は望めない。何度、どういう仮定のもとに考えたって、ここで踏ん張ってくしかない、という結論は変わらない。だったら考えても詮はない、とわかってい...