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プルースト 2022.10.12~2022.11.8
10月12日(水)曇。朝、三十分ほど、ちょっと遠くまで散歩。昨日家に籠もっていたので、身体がなまっていて、昼にも五十分ほど散歩した。さいきん出歩ける距離が伸びてきて、それはもちろんうれしいのだが、五十分も散歩したらほとんどそれで昼休みが終わり、プルーストを読めない。これはど...
2022年11月14日
まったくべつの本
文章を書くことが仕事ではあるが、書く文章がすべて仕事になるわけではない。小説を書こうとして小説を、エッセイを書こうとしてエッセイを書くこともあるし、何の気なしに書いていた文章がいつの間にか一定の輪郭をもちはじめ、そこでようやく自分が小説を書いていると気づくこともある。私がは...
2022年11月7日
プルースト 2022.9.13~2022.10.8
9月13日(火)晴。午後、プルースト日記の公開用の調整作業。毎月七日をプルースト文章、一週間後の十四日をプルースト日記の公開日、となんとなく決めていて、長篇に時間を取られて今月の文章の公開は今朝になっちゃったのだけど、日記は変わらず明日公開する。...
2022年10月15日
四割のほう
祖父が肺を病んで死んだとき私は小学校の中学年で、彼のことを、やたらと背筋がしゃんとして厳格な、碁を打つときだけ笑顔になって、ルールもよくわかっとらん孫を打ち負かしては悦に入るじいちゃん、くらいに記憶している。彼がビルマの密林を歩いていたのはその五十年あまり前のことだ。陸軍に...
2022年10月7日
プルースト 2022.8.17~2022.9.12
8月17日(水)曇ときどき雨。朝、Uptown Funkでブチ上げてから、昨夜入りそこねた風呂に入り、すこし散歩。小雨だから油断してたら、五分くらいで強くなり、逃げ帰る。洗濯機を回して始業。低気圧がひどいわりに捗った。 昼休み、太いソーセージを二本焼いてプルーストを起読。十...
2022年9月14日
おなじさ桜!
大晦日に坂本冬美が「さくら さくら いつまで待っても来ぬひとと/死んだひととは おなじこと」と歌うのを観たのと、その歌詞のもとになった林あまりの歌を知ったのと、どちらが先だったかは思い出せないが、いずれにせよ恋の情念など知らない小学生、もしかしたら幼稚園児のころのことで、生...
2022年9月13日
プルースト 2022.7.14~2022.8.12
7月14日(木)雨、梅雨のよう。起きて小雨のなかをすこし散歩。コンビニで週刊誌を買う。安倍晋三暗殺事件のことをずっと考えている。令和四年のテロリズム。 ミステリー小説ならフーダニットやハウダニットを推理する作品が多いように思うのだが、現実に重大事件が起きたときは、ホワイダニ...
2022年8月14日
発作
ヴェルサイユの庭園で過ごす長い昼間、語り手と恋人は〈スズメバチがぶんぶんいうような音〉を耳にする。語り手の祖母は、〈人間のつくる芸術でも自然のなかでも、偉大なものを愛して〉いた。この羽音のような音も、きっと祖母は好きになっただろう。恋人に指摘されてそれが飛行機の音だと気づき...
2022年8月12日
プルースト 2022.6.10~2022.7.12
6月10日(金)曇。四時ごろに起きた。昨夜髪を剃ったとき出血して、いちおう血が止まったのを確認してはいたのだが、寝てる間に掻きでもしたのか、枕に血痕。シミ抜きして洗濯機を回し、すこし散歩。それからしめきりがやばい原稿の作業をもくもくと続ける。...
2022年7月14日
美しい牢獄
あなたが思いつくどんな奇抜なアイデアも、すでに星新一が書いている。小説の書きかた読本を渉猟していたころに目にした言葉だ。だから、発想に頼るのではなく、プロットを練り、文章を磨け、といったような意味だった。それで私は、小学生のころに親しんでいたきりだった星作品を、十年ぶりに読...
2022年7月12日
明日のこと
高台にキャンパスがあり、坂を下ったところに附属の小中学校があった。私はそこで九年間を過ごした。私が小学校に入学したときは教育学部附属だったが、通ううちに教育地域科学部になり、卒業するときは地域学部になっていた。とはいえ、入学式を終えたばかりの児童にその違いはよくわからない。...
2022年7月1日
2021.12.31
行ったねえ。恋人が、みんなといるときよりゆったりした口調で言った。 行ったねえ。私も同じように返す。どちらからともなく手をつなぎ、北口から駅を出た。南口側ほど栄えてはいないが、こちらも駅を出てすぐは飲食店街だ。といっても、大晦日にもなるとチェーン店の多い南側と違い、北側はも...
2022年6月30日
2021.12.30
今年ぃ?とミツカくんが怪しむ。そうだったの?と今年ずっといっしょにいた恋人が目を見開く。あ、いや今日、今日考えてた、と慌てて訂正した。 今日ずっとでもたいがいやわ、とミツカくんが笑う。 まあでも今年ずっとよりはマシやろ。...
2022年6月29日
2021.12.29
四人を乗せた列車が消えていく。いやあ、しかしほんま寒いで。宇野原さんが言って白い息を吐き、白いまま吸い込もうとするように強く吸って、くしゃみをした。マスクもしてないし手で押さえもせず、顔だけは人のいない線路側を向いてはいたが、常夜灯に照らされて、飛び散るしぶきがよく見えた。...
2022年6月28日
2021.12.28
私たちの最寄り駅よりはやや小さく、乗降客も少なかったはずだ。ホームでは人がドアごとに数人ずつ待ってるのが見えたが、改札前はそれほど混んでいない。四人とも同じ、七分後の上りの快速に乗るという。私たちは改札前で輪になって話す。久しぶりで、よかったよ。楽しかったね。また集まろ。矢...
2022年6月27日
2021.12.27
郷里でも、七年間の学部生時代を過ごした北の街でも、クリスマスと大晦日の間は雪だ。冬はつるつるの道をよちよち小股で歩くもので、千鳥足なんてやってる余裕はない。今年流行ったアニソンが、通りがかった飲み屋の、歩道に少し張り出して、透明なフィルムで防寒された中から聞こえ、それがすぐ...
2022年6月26日
2021.12.26
そうと決めて歩きはじめた。撤収、といったところで、九人中七人は鉄道で、私と恋人も駅を通り抜けて帰るから、ひとまず目的地は南北にひとつずつある駅のどちらかだ。ここでいきなり解散でもいいけど、せっかく近くまで来たんだし、まず南側の駅から乗る人たちを見送ろう、ということになった。...
2022年6月26日
2021.12.25
おつりをこまかい小銭でもらい、各自に分配する。中途半端に残った三十九円は計算してくれたミツカくんのものだ。すまんねえ、とその程度の金額でもうれしそうにする。 あとこれ、みなさんおひとつずつどうぞ。学生さんが編みカゴを持ってきた。一人ずつ配ろうとしたのだろうが、いちばん近くに...
2022年6月26日
2021.12.24
恋人とルールーが、ルールーの新作について話している。宇野原さんが林原さんに、今月の文芸誌に載った君島さんの短篇の一節を口ずさんでいる。リンとエリカは私の知らない誰かについて陰口のトーンで交わしていて、ミツカくんとベラさんはそれぞれ一人で静かにグラスを傾けている。窓の外では学...
2022年6月25日
2021.12.23
いま世のなかには小説家としてデビューするための賞が無数にあって、私と宇野原さんと林原さんは、それぞれどこかの版元や雑誌が主催する賞を受けて世に出た。私と宇野原さんの賞はジャンル不問で、私は郷里を舞台にあまり倫理的によろしくない筋の、宇野原さんはリニアのトンネル掘りの話を書い...
2022年6月25日
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