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2021.5.30
とはいえもちろん、ベランダなりLDKなりにつながるドアを開ければさすがに聞こえるのだから、部屋の中にいるのはたしかだけれど、もくもくキーボードを叩いていても、ベラさんとかとZOOMで話していても、ミーティングをすっぽかして寝ていても、私にはわからない。彼女はちゃんと働いてい...
2021年11月27日
2021.5.29
隣室で、ドアの開く音がする。音、といってもそれは、夢うつつに毛布の衣ずれを聞くような、自分の身体になじんだ懐かしい音だ。この部屋に引っ越して五年、この部屋での暮らしが心身にしみこんで二、三年、といったところ。それぞれの部屋で仕事に打ち込んでいるとき──日中の半分くらいは、窓...
2021年11月26日
2021.5.28
その言葉を、私は座談会の場で直接耳にしたのだが、原稿とゲラと最終確認のPDFと実際の誌面で、その都度誰かの手が入って整理されていく文章をくりかえし読んだからか、実際に君島さんが口にした言葉と構成を経たテキストがない交ぜになって、彼が大分弁の抜け落ちた声で喋っていたような、私...
2021年11月25日
2021.5.27
たしかにぼくは、部活指導の記憶──自分の吹くホイッスルの音、耳に響くピストルの感触、生徒の声、トラックの風のにおい──が残った頭で喋っている。文芸誌に掲載されるぼくの発言には、ぼくの勤務の痕跡がずっと残る。刻印されている。されているんだけど、読者にとってはどうでもいいことな...
2021年11月24日
2021.5.26
それなりに集中して書き進める。ふと胃のなかから七草リゾットのチーズのにおいが湧き上がってきた。あれは美味かった、と思う時間が惜しくて、冷めたコーヒーを流し込んでにおいを押し返す。食べたばかりの美味いもののことを考えるのは人生の至福のひとつだが、私のそんな感情は読者にとっては...
2021年11月23日
2021.5.25
そんなことはないか。延々とつづくやくたいもない思考を打ち切ってアプリを閉じる。恋人もルールーもまだ私のメッセージを見ていない。仕事と睡眠と、それぞれのやるべきことに没頭しているのだ。 私は机に戻って、パソコンのスリープを解除する。銀行から自動送信のメールが来ていた。いくつか...
2021年11月22日
2021.5.24
みやびさん、仕事調整して参加するって。そうルールーに送り、パソコンのキーボードをばたばた叩くくまのスタンプを送るが、こっちも既読にならない。もう寝たのだろうか。 私はなんだか所在なく、そのままLINEニュースを見はじめる。芸能界では毎日いろんなことがある。ほとんどテレビを観...
2021年11月21日
2021.5.23
でもわたしも行くよ。万難をはいして……! 恋人は力強い言葉とともに、居合斬りをするペンギンを送りつけてき、じゃあとにかく、お昼まで集中するね、というメッセージのあとは、つかまつった、と蹲踞する私のペンギンは既読にもならない。
2021年11月20日
2021.5.22
さすがにそれは厳しいか。 たしかに! かっかっか、と大笑いするペンギンといっしょに送られてくる。 でももちろん、そんなことをヤスミンに伝えるわけにはいかないし、当事者──私の恋人とヤスミンとリーヴス──は大丈夫でも、それぞれの所属している会社が、社会がそれを許してくれない。
2021年11月19日
2021.5.21
『マトリックス』のシリーズのどれか二つと『スウィート・ノベンバー』しか私はキアヌ・リーヴスの映画を観たことはなく、彼のイメージはほとんどニュースアプリのゴシップチャンネルでつちかわれたものだ。ホームレスみたいな恰好で公園のベンチに座ってるリーヴス、パパラッチのカメラを奪って...
2021年11月18日
2021.5.20
ダメだー、と恋人は送ってきた。ヤスミン、明日の昼から三日間キアヌのアテンドだからミーティング延ばせないって。 リーヴス? リーヴス。 リーヴスならなんか、散歩優先していいよ!って言ってくれそうじゃない?
2021年11月17日
2021.5.19
とにかく、いろんな男(やその恋人)と切ったはったをくりかえしているエリカと、十数年間一人の男といっしょにいるリンという両極端な二人と、私の恋人が仲が良い、というのは、何というかバランスが取れているように思う。そう考えると、私たちが常に九人で──久保野くんやシロタくん、林原さ...
2021年11月16日
2021.5.18
昔ジャイアント白田というフードファイターがいて(今も活動しているのだろうか)、なにかの健康食品でさいごにシロタ株とつく酵素がふんだんに配合されている、というような売り文句のCMを観たことがあり、それで私はシロタくんのことを、胃腸がつよくてよく食べる、ひどく健康的なイメージで...
2021年11月15日
2021.5.17
シロタくんも、恋人の親友の一人である彼女が、会わない間に小説家と交際をはじめ、プロポーズを断り、しかし同棲はして、いまこうやって中央線の奥のほうで、いっしょに隣で仕事をしているとは思わなかっただろう。シロタくんはオフィス用品のリースをやってるさわがに商事の営業をやっていて、...
2021年11月14日
プルースト 2021.10.8~2021.11.3
10月8日(金)晴。通勤ルートにある、猫のいる家が、一昨日くらいから外壁工事(か塗装?)をしていて、網みたいなシートで覆われて猫が見えず。昼休み、安田和弘と早稲田のかどやでランチ。がんばっていこうな、と話すなどする。高揚して職場に戻り、午後の勤務。安くなってた軟骨を買って帰...
2021年11月14日
2021.5.16
卒業式のときはべつに、そういう、何ていうの、思想を行動で、行動しないことでしめすタイプの人とは思わなかった。 もちろんその日からとうに十年以上経っていて、人が変わるのに十年はじゅうぶんに長い。
2021年11月13日
2021.5.15
彼女が最後にシロタくんと会ったのは美大の卒業式に、同じ日に別の大学の卒業式に出ているはずのシロタくんが花束(もちろん薔薇の、九本の)を持って現れた日までさかのぼる。 同じ苗字になるのがいやってわけじゃない、結婚したらどっちの姓にしようね、みたいな話をすることもあるらしいし、...
2021年11月12日
2021.5.14
対照的にリンは、高校の同級生と、大学も職場も同じ街を選んで、十数年、そろそろ四捨五入で二十年になるほどつきあっていて、私の恋人が知っている範囲ではお互い浮気をすることもなく、いっしょに住みはじめてからでも十年くらい経っていて、そして籍は入れていないという。...
2021年11月11日
2021.5.13
恋人はその内容を、気が向けば私に教えてくれたし、あまりにエグい──というのがどうエグいのかは教えてくれなかったが──ときはただ、またエリカが男を捨てたよ、とか、どうしようエリカが寝取りの味に目覚めちゃった、とか、結果だけを伝えた。
2021年11月10日
2021.5.12
江の島散歩を提案したのはエリカだったが、いちばん飽きっぽいのもエリカで、途中しばしばスマホを触っていたのは、写真を撮っていただけではないのだろう。たしか私たちは、だいたいどこに行ってもエリカの、そろそろ帰ろーよ、という言葉をしおに引き上げた。その後の五年間で、私の恋人は彼女...
2021年11月10日
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