2022年3月22日2021.9.22単価のことはさておいて、漱石はとにかく書いたのだ。十六行書きながら、その無為な会話のあとにくる場面を頭のなかで組み上げた。文章を書いているときは、目の前の作品に集中していて、ほかのことを考えている余裕はない。書くことは考えることだ。とにかく書いてれば、そのうち続きが見えてく...
2022年3月22日2021.9.21漱石の『虞美人草』のなかに好きな一節がある。好きというかときどき思い出す一節だ。小野さんのところに旧友の浅井君が訪ねてきたときの、下女と小野さんのやりとりだ。 「通してもいいんですか」 「うん、そうさね」 「御留守だって云いましょうか」 「誰だい」 「浅井さん」 「浅井か」...
2022年3月20日2021.9.20とはいえ、図書館を辞めてからもう五年あまりが過ぎた。三十代の五年間の職歴が空白では、どうにか働き口が見つかっても、今と同じくらいの収入は望めない。何度、どういう仮定のもとに考えたって、ここで踏ん張ってくしかない、という結論は変わらない。だったら考えても詮はない、とわかってい...
2022年3月19日2021.9.19中上健次が芥川賞を受賞したとき、記者たちを前に、あんたらはインテリかもしれへんけどもしかしな、この肉体でもって汗水たらして働くんのんがほんまもんの人生なんやあ、と啖呵を切った、というエピソードを、私は宇野原さんから何度も聞かされていて、そのせいで中上を読むと人物が全員宇野原...