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2021.10.30
不毛なことを考えるのをやめて案内表示を見上げる。集合時間までに下りの列車は、ちょうど今着いたのと三分後の二便しかない。二人はどっちかに乗ってるはずだ。エレベーターを挟んで二股に分かれた階段を、人がたくさん降りてくる。五時過ぎではあったが、都心からの退勤ラッシュにはまだ早い。...
2022年4月29日
2021.10.29
北口から駅に入ろうとしたところで、まもなく一番線に五時二十六分大月行き快速がまいります、と放送が聞こえる。恋人がまた振り向いて、誰か乗ってるかな、と言った。 私たちの街は、北口側はすぐ住宅地になっていて、駅前よりむしろ、大学の門の周辺のほうが栄えている。繁華街は南側だ。乗り...
2022年4月28日
2021.10.28
じゃ宇野原さんも? どうだろ、と言うと、そのやりとりが聞こえてたみたいに、ベラさんが画像を送ってくる。駅南口の時計台──といっても、広場の中央にちょっとした植え込みがあり、そのまんなかにポールが突っ立ってるだけだ──前で、舌を上に伸ばして寄り目で鼻先を舐めながら敬礼してる宇...
2022年4月27日
2021.10.27
いつだったか、二人の作品からインスピレーションをもらえたよ、と二人展を観に行ったときに伝えた。いい作品書けそう。マスクをしていたからパンデミック以降のことで、そのあとみんなでご飯に行ったから、ある程度感染が落ち着いていたころだ。けっきょく私は、その日帰ってからすこしネタ出し...
2022年4月26日
2021.10.26
まだ集合時間には余裕がある。私は先に外に出て、彼女が会計を終えたら見えるよう、ガラス張りの前に立つ。スマホが盛んに震えている。〈散歩隊〉がまた賑わっていた。林原さんが〈ノルマ終わり! 急ぎ向かいます!〉と投稿して、ルールーが〈わたしもう出てた、いまお茶の水〉と返したのをきっ...
2022年4月25日
2021.10.25
ファミマに入り、それぞれの飲みもの(恋人は常温のクリスタルガイザー、私は冷えた伊右衛門)を手に取った。 あ、カオルくん、わたしが出すよ。おとといのとき出してくれたし。 ほんと? ありがと。二日前の散歩のときは、たしか私が、喉かわいた、と言ってぐんぐんグルトを買い、恋人はそれ...
2022年4月24日
2021.10.24
今日はじめて外に出た。私はマスクの下で呟いた。今日がはじまって十七時間目にして。 そうだっけね。 みやびさんは、朝なにしに出たんだっけ。 煙草。ファミマまでね。 じゃ今日二度目のファミマ。 七時間ぶり二度目のファミマ。朝の店員さんまだいるかも。...
2022年4月23日
2021.10.23
もちろん、というか、入ってすぐ外す人は一定数いる。私のいるカウンターに本を借りに来る前につけ直す人がほとんどだが、たまに顔をさらしたままの人もいる。面倒だし、反論のために喋られるほうが嫌だから、こちらもわざわざ注意はせず、できるだけうすい呼吸で対応する。...
2022年4月22日
2021.10.22
息苦しいからちょっとした風邪くらいじゃマスクなんてつけなかったのに、今では唇とか鼻の下を外気に晒すほうが落ち着かない。治療薬ができてからは自費になったワクチンを、もう三年は打っていないから、今の私たちにはほとんど抗体がないはずだ。リスクと手間を天秤にかけ、その日の気分と体調...
2022年4月21日
2021.10.21
シューズボックスを開ける。クイックルとかゴミ袋のストックとかといっしょに、ルコックの靴を買ったときの箱がある。私たちのマスク入れだ。一枚取って、ドアは閉めずに、一人が立つのがやっとの土間の靴に足を突っこむ。立ち上がって振り返り、冷えた金属のドアに背中を押しつける。尻に財布が...
2022年4月20日
2021.10.20
頷いた恋人は大きめのリュックを背負っている。私ほどではないにせよ、彼女もふだんは荷物が少ない。いっしょに暮らしはじめてからは、散歩用に小さな、スマホと財布とポーチくらいしか入らないバッグを買っていた。だから今日の荷物の大きさは常ならないもので、そういえばそれは、一、二ヶ月に...
2022年4月19日
2021.10.19
私がかつて住んでいた北の街では、冬が近づくと、白く小さな虫が大量に宙を飛ぶ。雪虫、というその呼び名が、雪の季節の先ぶれであることによるのか、細かな雪が舞っているように見えるからかは知らないが、例年ならちょうど今、十月の中頃に、今年も雪虫が目撃されました、と、地方紙やローカル...
2022年4月18日
2021.10.18
同棲をはじめて数ヶ月の間、私たちは、今は物置になっている部屋を寝室につかっていた。それぞれの旧居からもってきたシングルベッドをくっつけて、キングサイズのシーツをかけていた。そういう寝かたをしていると、ときどき、動いている間に片方のベッドがずれて、間に足が落ちたりする。私の膝...
2022年4月17日
2021.10.17
マグに残ったコーヒーを一気に飲んで部屋を出る。 恋人はまだだった。マグを持ってシンクに立つ。水を溜めた深皿に、二膳の箸が入っている。たいした量じゃないから帰ってからでも、と思いついたときにはもうスポンジに水を含ませている。もったいないからすこしだけ、と思ったのだが、力加減が...
2022年4月16日
2021.10.16
そんなことを考えていたら、隣の部屋で物音がした。作業に没頭していれば気づかないくらいの音だ。私は息をひそめて耳を澄ますが、午後五時ちかい今は外の街がざわめいていて、何の気配も感じ取れない。恋人が準備をはじめたのだろう。私はけっきょくスマホをいじっていただけだ。仕事をしている...
2022年4月15日
2021.10.15
、と思うが、きっとどこの街を選んでも、私は同じ感慨を得ている。 ニュースアプリを閉じてLINEを開く。おまえもまじめか!といきなり目に飛びこんでくる。エリカだ。ルールーが、本人は決してそんな表情をすることのない、涙を流して大笑いする顔文字を返している。すこし履歴を遡ってよう...
2022年4月14日
プルースト 2022.3.13~2022.4.6
3月13日(日)曇。三時ごろに自分のくしゃみで起き、講談社の漫画アプリでいくつかで読んでいるうちに、YouTubeのアプリの通知で柏木由紀のメイク動画をおすすめされ、なんか観てしまう。けっきょく二時間くらい布団のなかでダラダラしてから二度寝。...
2022年4月14日
2021.10.14
うろうろして、いまいちな見た目の家系ラーメンとか前の家の近くにも似たようなのがあったナンカレー屋とかを通り過ぎて、けっきょく歩き疲れたころに、これもどこにでもありそうな街中華に入って、花椒の効いた辣子鶏を食べて唇をひりつかせながら帰った。お互い出勤しなくなったから、と、私た...
2022年4月13日
2021.10.13
そうしているとまたインターフォンが鳴り、別の運送業者が宅配便を持ってくる。連休最終日に文学フリマがあって、私は知人のブースを冷やかしに行った。パンデミックがはじまってから、文学フリマは一度の中止を挟んでそれが四度目で、私にとっては二年半ぶりだった。買った物が多すぎて持って帰...
2022年4月12日
2021.10.12
三人の運送屋さんたちが手際よく養生をして、私たちの荷物をどさどさ運んでくる。うおお、と楽しげな悲鳴を上げながら、それがいちばん多い、大量に本が詰まった箱を積み重ねていく。すいません、本ばっかで。引っ越しのたびに言う言葉を私は今回も言い、いやーぼくらはこういうのがいちばんいい...
2022年4月11日
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